『小説の技法』ミラン・クンデラ、西永良成 訳、岩波書店、2016
https://www.iwanami.co.jp/book/b243826.html
ミラン・クンデラの小説論。クンデラは食わず嫌いであまり読めていないのだがこれはよかった。翻訳を読んでいうことではないが、文章うまいんだろうなと思った。
語彙が豊富で思想的な面まで含めて幅広い参照先を持ち、文体も過剰に説明的にならない。そういう点をむしろ韜晦ととらえて忌避する向きもあろうが、個人的には実作をしている体験と紐づけて非常に面白く読めた。
興味深いのは自身の小説は心理主義的ではないといいながら実存という言葉を出すところである。その実存は社会学的な概念ではなく、また美学的に分析されるものでもない。では何か? 現代的な複雑化した実存を書くには①徹底した簡略化の技法 ②小説的な対位法の技法 ③小説に特有のエッセーの技法(仮説的、遊戯的、イロニー的)という方針を立てる(第四部 p.103)。この三つは私自身取り組んでいるものに非常に近しいと思う。
学術論文ではないのであくまでも「クンデラの小説論」であるが、これ自体が小説としての読みを誘うような達意と遊戯性がある。クンデラは邦訳がいろいろ文庫で出ているようなので読んでみようと思う。