メモ:バーナード・ウィリアムズ

投稿者: | 2024年8月10日

バーナード・ウィリアムズに関するレクチャーをオンラインで聴講した。登壇は今年2月に青土社から『バーナード・ウィリアムズの哲学――反道徳の倫理学』を刊行した渡辺一樹氏。聞き手として長門裕介氏。正直なところバーナード・ウィリアムズについてはほとんど知らないし、倫理学にも詳しくないので、メモを取りながら勉強する。

単に功利主義批判の倫理学者とみなすと語弊があるというのが出発点。道徳/倫理、近代/反近代、理性/感情、理論/実践といった概念的な枠組みは複雑性を抑制するために有用だが、B.Wの場合は、端的に一方について他方に対する、という単純な立場に帰せられない。概念による思考の大局化に対して、「現在」の特権性、人間の個別性を置く。ではその倫理学は実存的か。例えばゴーギャンのタヒチ行きは「成功」だったといえるかどうかという評価の問題。実存的評価については、その基準が時間的に一定であるか(→道徳)、時間的に変化するか(→倫理)、という観点があり、B.Wは評価基準が固定しない人間的なもの、リアルなものを志向した。

B.Wの議論は既存の倫理学の枠組みから外れるところがあるがゆえにいま新しい、ということだろうか。例えば「意味がある生」という語りについて。これは一般に以下の三つのカテゴリーに整理できる:i) 卓越性(強い規範性)、ii) 価値(望ましさ)、iii) 感嘆。しかしこれらを満たす「意味のある生」は往々にして偉人伝に属する。それに対して、i) ~iii) に属さない、私自身の人生をよくする自分自身に対する義務を考えるということである。この観点から長門氏のリードで現代的な話題へと議論が開かれた。

渡辺氏からの議論提起として、理性/感情といった西欧的な枠組みに対して、例えば「義理人情」を対置してみてはどうか、という話があり、これは面白いと思った。また、Wikipediaによると、B.Wはアマルティア・センと共著があるらしい。これも興味がある。読んでみたい。主著が文庫化されているので、それをひとまず読んでみようかと思う。B.W以降イギリスでニーチェを読む意味、みたいな小話も興味深い。いろいろ関心がわくレクチャーだった。

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