全国映画資料アーカイブサミット2021

投稿者: | 2021年3月3日

3月2日(火)「全国映画資料アーカイブサミット2021」をオンラインで観覧した。

【オンライン参加募集】3/2(火)「全国映画資料アーカイブサミット2021」

午前中は用事があって、午後の第三部以降のみ参加した。主催は文化庁で、運営に映像産業振興機構(VIPO)という特定非営利活動法人が入っている。VIPOはホームページによると、2004年に経団連が出した知財・コンテンツビジネスに関する提言に含まれていた映像コンテンツ産業の振興のための組織として、経団連と行政の提携の下で設立された組織である。文化庁の仕事をいろいろと受けており、今回のサミットは「令和2年度アーカイブ中核拠点形成モデル事業(撮影所等における映画関連の非フィルム資料)」の一環である。この事業は平成30年からの継続であり、過去二年度分の報告書がウェブで閲覧できる。

映像産業振興機構
令和2年度アーカイブ中核拠点形成モデル事業(撮影所等における映画関連の非フィルム資料)

事業名称にほぼ尽きるのだが、映画等の映像コンテンツに関するフィルム以外の資料をいかに散逸・消失から守って、アーカイブし、利用に供していくかという課題に対する取り組みである。

第三部(セミナー)「『羅生門展』に見る映画資料のデジタル展示について」では、国立映画アーカイブで2020年度に開催された『羅生門展』で開発・運用された、モーションセンサーを用いた非接触型のモニターによる映画資料の操作・閲覧システムについての解説とデモンストレーションが行われた。

国立映画アーカイブ(NFAJ)
公開70周年記念 映画『羅生門』展

モーションセンサーで手の移動と開閉を感知し、前者はカーソルの移動、後者をクリックとして認識して、モニターに表示されているデジタル資料を操作・閲覧する。同時に複数の資料を比較するためのモニターに複数資料を同時に表示するなどUIは工夫されており、ほかの展覧会にも展開可能では、という話。

第四部(セミナー)「映画資料のアーカイブと公開に関する権利処理と最新動向」は過去の資料のアーカイブに際して避けて通れない著作権についての講演。著作権等についての著作が多い福井健策氏が講師。福井氏はVIPOのセミナーではたびたび登壇している様子である。

講演では具体的な作品名を挙げて、その作品が現在PD(パブリックドメイン)であるかどうか、あるいは著作権がいつまで存続するかを考えるなど、実践的に使える知識が紹介されたが、制度が込み入っていてなかなか一聴で理解しきるのは大変である。インターネットを通じて簡単に発信ができる時代だからこそ正しく理解すべき制度だが、たとえばYouTubeはJasracと一括契約で使用権についての契約を交わしていて、個々の利用者は条件に適合すれば特に著作権について考慮する必要がない。プラットフォーマー頼みになってしまうのはどうだろうかという気もするが、現実問題としてそういった手当てができるプラットフォームが伸びていくということはあるだろう。

動画投稿(共有)サービスでの音楽利用 – Jasrac

第五部(シンポジウム)「映画資料をめぐる現状とその課題―全国ネットワーク化に向けて」。実際に映像コンテンツに関する非フィルム資料の保存・活用に取り組んでいる当事者をパネリストに迎えて現実的な話を聞く内容で、どういったことが現実的な課題として日々起こっているのかについて話題が交わされた。

太秦映画村では今でもオープンセットの一隅から思いもよらない資料が出てきたりするらしく、また、周辺に住む映画関係者からの寄贈の申し出もある。そういった資料の保存・展示目的で映画図書館を2020年7月にオープンした。

東映太秦映画村・映画図書館

調布市は日活や角川大映の大型撮影所が市内に立地し、その他多くの映画・映像関連企業が集う地の利を生かして「映画のまち」という地域アイデンティティを掲げており、シンポジウムには調布市立中央図書館で映画関係の資料を扱っている方が登壇した。

映画のまち調布

また、神戸で資料のアーカイブや上映を行っている神戸映画資料館の支配人が登壇した。西日本でローカルな民営アーカイブがどのように運営されているかについて興味深い話が伺えた。

神戸映画資料館

現実的に将来にわたって資料を受け入れ続けるのは物理的なスペースの問題があることや、ボランティアによる資料整理のありがたさなど実際的な話題が出た。調布市や京都府は本事業における「中核拠点」となることを期待されているのだが、その現場は地道である。また、アメリカなどに比べて日本では大学等の研究機関がアーカイブ機能を持つケースが少ないことに言及し、研究用途に供することの難しさもあって、理想とするような学術的な研究との連携にはまだまだ時間がかかりそうだという印象。他方で寄贈の申し出があった資料をスペースの問題で断ることもあるといい、シビアな状況である。

デジタル化の試みについても言及があり、早稲田大学演劇博物館の例などに触れながら可能性が語られる一方で、日々マテリアルな資料の保存・保管に取り組んでいる現場との対比が興味深い。イベントの最後に、事務局から各中核拠点が保有している資料を横断的に検索できるインタフェースの紹介があり、まだテスト中とのことだが、この事業の一つの成果物となるものだろう。

早稲田大学坪内博士記念演劇博物館デジタルアーカイブ
Japan Digital Theatre Archives

また、『全国映画資料館録2020』という出版物を作成し、全国で映画関連の資料を保有・公開している施設を、細かなところも含めて調査し、目録化している。前回の作成が2015年で、5年間での改廃を反映したものだという。

 

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