先日ある講演で、「初心」というときの〈初〉の字は、衣に刃をいれる、と読めるという話を聞いた。つまり、それまで積み上げてきた何かを切り捨てることで初心にかえり、次の一手が打てるらしい。
私にとっていま切り捨てなければならないのは、エンジニアという仕事への執着であろう。
あと少しなんだがな、と、そればかり悔しい。ほんの少しの経験で一気にひらける予感がある。しかし、それはもう叶わない話だ。無駄なことは勘ぐらずに捨てる。
コーディングは好きだ。競技プログラミングの練習を少ししていて、それが楽しい。
楽しいなら、それはそれで楽しめばよい。昨今、別にエンジニアリングを職業にしなくても、いくらでもコーディングを楽しめる。
コーディングは好きだが、特に何かツールのようなものを作りたいという意欲はない。もう少し抽象的に考えている。
楽しめばよい。その一環として、情報理論も学ぶ。コーディングについて数学的に考えたりもする。
結果をあらかじめ期待しない。なるようになるものである。いまできることをする。手を動かし、本を読む。
いまできることを積み重ねているうちに、いまできないことに手が届くこともあるだろう。そのくらいの余裕がほしい。
私の履歴書はすっかり白紙になったも同然だが、振り返って、履歴書に書き記したいようなキャリアがあったかというと、あまりない気もする。
ここからゼロスタートのようなものだ。負けてたまるかと、根性だけが支えである。