Bob Dylan – The Times They Are A-Changin’
さすがにボブ・ディランについていまさら一家言述べようとは思わないが、アコースティックギターでフォークを歌っていた時期のディランの音響的な良さというのがあって、たとえ歌詞が聞き取れなくとも(ここ重要)、アタック感のあるアコギのストロークやフィンガーピッキングとハーモニカ、そしてディランの歌というミニマムな構成で十分音楽的に豊かに成立している。本当に素晴らしいと思う。
この “Ballad of Hollis Brown” はギターがフィンガーピッキングのリフレインで、低音弦を親指で強く弾いているのがわかる。上の和声は動いておらず、実質ベースラインだけがパターンにしたがってグルーヴしている。独特の酩酊感がある中で、叫ぶでも歌うでもないディランの歌唱が淡々と続く。
音楽として(あるいは音響作品として)非常に強いものであるのに重ねて、歌詞が卓抜であるのだから、評価されないわけがない。
全体的に節制があるので時折挟まれるハイトーンボイスやハーモニカがとても効果的に響く。なんでもそうで、常に歌いまくればいいわけではなく、一瞬の華のために抑えた地があるのがよい。