香川県立ミュージアムにて第65回日本伝統工芸展関連講演会「文化力競争時代の日本工芸」(講師:林田英樹氏)を聴講。
国内外で「文化力」を競う時代であるが、[*1] 文化芸術立国の掛け声の下で博物館・美術館の総数や入場者数は伸びているものの、関連予算はピーク時の三分の一程度に減少。それが昨今、芸術祭の流行などでまた増加の傾向にあるという。ハードへの投資が一段落し、ソフトへの投資が行われているものの、多くの施設では新作を買い入れる予算もままならない。
文化は社会の豊かさ(モノからこころへ)の指標であるのみならず、国や地域のアイデンティティを示すものでもあり、また、文化芸術が経済活動において新たな需要や付加価値を生み出す。そうした前提のもと、平成13年の文化芸術振興基本法制定に始まり、平成29年の文化芸術基本法成立へと、国が基本政策を立てて総合的文化政策を推進する体制を作ってきた。ここで問題となったのが、対象となる文化が有形のもののみならず、無形のものも含むという点である。具体的には、戦前の演劇関係者への言論弾圧を想起させることもあり、政府の文化への介入へのアレルギーが見られたが、関係者のフォーラムとの協調や超党派の議員連盟の推進によって行政(政治)と文化の関係は徐々に変化してきた。
講師の林田氏は現在、公益社団法人日本工芸会理事長であるが、伝統工芸ないし伝統的工芸品産業をめぐっては微妙に領域が異なる管轄が複数存在する。例えば経済産業省は産地振興を前提とした文化振興施策をとるが、[*2] 日本工芸会は個人の技法・技術(つまり無形文化財)の振興を想定している。[*3] 「伝統工芸」と「伝統的工芸品」も指示する対象が異なる。[*4]
文化財保護法は昭和25年に議員立法で制定された。敗戦後の混乱の中で日本の伝統的文化が失われることへの危惧があったという話である。当初は有形文化財が対象であったが、無形文化財の保護や従事者育成を図るために工芸作家が中心となって設立されたのが日本工芸会(昭和30年)。現在の重要文化財、人間国宝といったものはこの流れから生まれた無形文化財保護のためのものでもある。
林田氏の関連する団体で工芸を「使う文化」に取り戻そうという施策を様々打っている。そのためには美術としての工芸と産業としての工芸の連携、地域間連携、分派したグループ間の連携、工芸と食、工芸と建築、といった様々な連携が求められる。本質的には、工芸はそれが生まれた生活や環境、習俗などと切り離せないものであっただろうが、そのような過去の生活・環境をそのまま復元するのはなかなか難しい(個別に取り組みはあるが)。「技術・技法」としては「伝統」に依りながらも「作品」としては「新しい創作」に挑むことになる。この両者をどうつなげていくか、つながっていくかが重要であると、最後の質疑応答で講師がおっしゃっていた。
講演会後、企画展「日本伝統工芸展」[*5] を観覧。ボリュームあり、とても素晴らしかったです。
*1 「文化力」プロジェクト|文化庁
http://www.bunka.go.jp/bunkaryoku_project/
*2 日用品・伝統的工芸品(METI/経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/nichiyo-densan/index.html
*3 日本工芸会について-公益社団法人日本法人会
https://www.nihonkogeikai.or.jp/about
*4 伝統的工芸品とは|伝統工芸 青山スクエア
http://kougeihin.jp/association/about/
*5 香川県立ミュージアム
http://www.pref.kagawa.jp/kmuseum/index.html
以上、2019/1/6 アクセス