フェラ・クティ

投稿者: | 2019年2月14日

『フェラ・クティ 戦うアフロ・ビートの伝説』マビヌオリ・カヨデ・イドウ, 鈴木ひろゆき 訳, 晶文社, 1986/1997→1998

原書のナイジェリアでの出版は1986年。1997年に仏訳が出版され、その際に増補改訂されたものを参照した日本語版。10年来フェラの下で働いてきた著者が彼と袂を分かって間もなく出版したものであるらしく、彼を批判しつつも再起して行動することを促すエピローグが痛切。

フェラはキャリア初期の米国ツアーにおいて自身のマイノリティ性を痛感し、以後常に欧米に対するアフリカ、あるいは権力に対する個人として「戦い」続ける。しかし苛烈な弾圧の繰り返しの中、「精神的変化」を生じ、それに共振して彼のコミュニティは集団パラノイアの様相を呈した。著者はそれを身を挺して忠言したが、結局フェラから離れた。以後、フェラからそれまでの闘争的な言動や活動が退潮することに対して、著者はフェラを鼓舞する一方で、彼には避難所が必要だったのだろうという見方も示す。また、その後も音楽作品の制作を行っていることから、フェラは正常な精神状態でありながら逃避していたのではないかという見方も示す。

「ある意味で、六〇歳近いフェラは世捨て人になってしまったのかもしれない。戦いのなかであれほど多くのものを賭け、そして失ったあとで、彼には「精神的変化」という避難所が必要だったのだろう。」[p.154]

史実関係もむろん重要だが、この著者がどういう思いでこの本を書き、出版したかということに思いをはせると、なんとも感慨深い小著である。

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