林 栄一(As)、吉田隆一(Bs)、山田丈造(Tp)、後藤 篤(Tb)、石渡明廣(G)、岩見継吾(B)、磯部 潤(Ds)。
林栄一、Wikipediaに項目があったが、ディスコグラフィーなどあまり更新されていない様子。ライブスケジュールがまとまっているのが音楽教室の講師ページというのも不思議な感じがする。しかしこのライブの本数は尋常ではない。
「こんなにおもしろくて、うるさくて、馬鹿で、汚くて、美しいバンド、ガトス・ミーティング万歳!(林 栄一)」[PIT INNのページより]
この林本人の評に尽きる感じもある。ある種の美意識、相反するものが混交する状態。哀感に満ちているようで頭の上はすこんと晴れているような、底の抜けたような突き抜けた感じがある。そして、なによりもバンドであり、アンサンブルである。
音楽教室の講師ページのプロフィールによると、ガトスミーティングは「自曲の3管アレンジを聴かせる」(*現在は4管か)バンドであるという。演奏される楽曲は林の自作曲中心で、それを今回であればアルト・サックス、バリトン・サックス、トランペット、トロンボーンの四管のアンサンブルをフロントに据えてアレンジする。林はプレイヤーとしての他に作曲・編曲でも知られていて、このガトスミーティングでは自作の曲を自身のアレンジで、若いメンバーと一緒に演奏するという基本的なコンセプトがある。
この目論見は非常に当たっていて、ホーンセクションの力強く張りのある音色は、林のシンプルで情感のあるテーマにフィットしているし、林自身触発されているのではないかと思う。
アレンジ面では、複数のホーンが好き勝手に吹いているように聴こえる状態から一気にテーマのユニゾンに入って重厚にまとまるという場面がわりとあって、ユニゾンがとても似合うバンドである。あとは、ホーンのアンサンブルによるコンボの場合にチャールス・ミンガス[*1][*2] はとても大きな参照項なのだろうと感じる。林も過去作[*3] で”Fables of Faubus”を取り上げている。
演奏面では、各ホーンが力強く吹き切るのを受け止めるだけのバンドの懐の深さがあり、それを支えるベースとドラムのタフなビートと、オクターバーやワウなどで彩りを添える石渡のギターがあって、全体として大音量ながらもバランスが取れている。各楽器が自分のよく鳴るポイントを心得ていて、高いテンションでグルーヴする。また、そういったバンドの演奏で乗ってきたときの林のアルトのフレージングは非常にすごみがある。
ホーンがソロを取る際、ベースとドラム(とギター)は基本となるビートを刻み続けるので、それぞれ即席のトリオ(カルテット)ができるような状態になる。それでグイグイとソロ回ししながら時々リズムパターンを変化させたりして、これは演奏する側も楽しそうだなと思う。
岩見のベースは太く丸みのある音で、演奏にドライブ感がある。例えばアンコールの”NAADAM”だと、ベースのリフから入ってそれにユニゾンでバリトン・サックスが合わせてからテーマに入って、アルト・サックス→トランペット→トロンボーン→バリトン・サックスとそれぞれ四小節のソロを三周するなど、ちょっとしたアレンジが冴える。また、吉田のバリトン・サックスがさり気なく林のソロをサポートするように低音部を支える場面もあり、なんとなくいい光景だなと思った。
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*1 ピアノを入れないという選択はもしかしたらミンガスとの対比で考えられるのかもしれないと推測した。
*2 「チャールス」表記と「チャールズ」表記と、ネット上でも揺れがあって、どちらが正しいのかわからない。
*3 “NAADAM 2020” https://chiteirecords.stores.jp/items/615566bc23055776ce15376d